「聞こえないよ、スピーカーにしてよ」

「聞こえなくていいだろ、俺が話してんだから」

「そんなのダメに決まってるでしょ!」


耳元からばっと取り返して睨みつけ、玄関のほうに向かいながら春ちゃんに話しかける。


「ちょっと待ってて。三人で話せるようにするから」


言ってから振り返って、シゲも渋々ついてくることを確認してドアを開けた。






玄関のほうでスピーカーフォンに切り替えて、三人でいろいろ話した。


でも主にシゲの近況アップデートで、春ちゃんは自分のことは「ちょっと身体壊して去年から実家にいるんだ」とだけ言ってた。


美術教室で始めた講師の仕事はどうなったんだろうと思いつつ、聞きそびれた。入院して休んでいるのかもしれない。掛けているのが家からか病院からかはわからなかった。


電話を切ってから二人でダイニングに戻ると、なんだかどっと笑われた。


「結衣ちゃん意外と強いって話してたんだよ」

「いや、むしろシゲが弱いとかな。男の方が弱いよなぁ、若い子たちは」


ああ、こういう方向性か。シゲとこういう風にからかわれるのしょっちゅうだったけど、さすがに久しぶり。


適当に笑って応対してやり過ごす。