そのあとも話しかけてくるわけでもなく静かに食べてる。


洗い物に集中してたら、食べ終わったお皿をシンクに運んできたシゲに声を掛けられるまで気づかなかった。


「変わってないな、結衣」

「どういう意味?」


変わっちゃったと思うけど、いろんなことが。


「いつも歌ってるよな、お前」


ムカつく。歌なんてずっと歌ってない。


シゲも春ちゃんもいない場所で歌う気になんかなれなかったって、知らないくせに。






「古瀬のことは嘘じゃないわけ?」


ついでみたいに聞かれて、手が止まった。


「普通に付き合ってるみたいだったけど」


え、なに、どういうこと、と一瞬対応できないうちに、シゲはもうドアから出て行った。






嘘だって気づいた?シゲが?まさか!とうろたえてから気づく。


違う、別れたってのが嘘みたいだって言われたのかも。まだ付き合ってるみたいだってことだ。


なんだ。逆か。


よかった。そうだよね、シゲはそんなに勘が良さそうでもないのに、いきなり気づいたりしないよね。





ほっとしながら、少しがっかりしてる。なんだろうこれ。


見破ってくれたらいいなって、思った? シゲが気づいてくれたらいいのにとか。相変わらず自分勝手だなぁ、私は。


ごめん、純。許して。今さらシゲに純のことをばらすとか、そんなことしないから。


ちょっとだけ、シゲが今どんな風に暮らしてるのか、見てみたいだけだから。