「結衣」
また声をかけてくる。
「こっち向けよ」と言われて、しかたなく手を拭いて振り返る。
「お前さ、夏の間手伝わない? 仕事」
予想外の誘いにうまく反応できない。
今さら連絡したくなかったって言ったくせに、おとといだってあまり話さなかったのに、なんでそんなこと言うの?
「綾さんがアシスタント欲しいって言うし、細々したこと色々あるんだよ今。夏休み中暇になったって言ってただろ?」
「……仕事とか全然わかんないし、無理だと思う」
「平井さんも賛成してて、来てくれると本当に助かる」
シゲは箸を置くと、立ち上がってまっすぐに私に向き合った。
「まだムカついてるんだったら、俺と絡むことはやらなくていいからさ。頼むよ」
どうしてこいつは、こんなに素直にまっすぐに育っちゃったんだろう。こんな風に頼まれたら、断れないじゃん。
「バイトでも探そうかなと思ってたから、別にいいけど」
また背を向けて皿洗いを始めながら、適当に聞こえるように言った。
ずるいんだよ、今更いきなりまた友達みたいに頼んできて。