お昼前になって、綾さんに声をかけられた。
「結衣ちゃん、できたらランチの準備手伝ってくれないかな? 裏で作るんだけど」
ついて行くと、一番奥にあるドアの向こうがいきなり普通の家のダイニングキッチンのようになっていた。
靴を脱いであがる。
「おかしいでしょ、ここ。工場の裏に二階建ての家がくっついて長屋みたいになってるの。玄関は横に別にあるけどね」
お昼ご飯は、綾さんを中心に作ってみんなで食べることが多いらしい。定額のランチ代を払って、そのお金で買出しにも行ってるという。
洗ったり盛り付けたりの簡単な作業をお手伝いしたらすごく喜ばれて、私も中華炒めランチをご馳走になった。
お礼に食器を洗っているとシゲが帰ってきたから、とりわけておいたランチを温めて出す。
変なの、なんで私がシゲのお昼の用意なんかしてるんだろう。
「結衣、聞きたいことあるんだけど」
食べながらシゲが話しかけてきた。
「なんで俺、お前と付き合ってたことになってんの」
「違うよって愛華に言った?」
壁に向かったキッチンで食器を洗う手を止めず、後ろを振り返らないで答える。
「いや。事情がわかんないから、適当にごまかしといた。意味がわかんないんだけど」
「いつのまにかそういう話になっちゃって、別にシゲいないしどうでもいいかなと思ってそのままにしちゃっただけ。違うって言っていいよ」
愛華がその件で私を責めてたなんて自分から言うわけないし、単に疑問なんだろう。
「どうでもいいってなんだよ。変な嘘つくなよ」
それこそどうでもよさそうに文句を言って、シゲがまた食べ始めた気配がした。
どうでもいいよ、ほんとに。
誰が誰を好きで、付き合ってたってそうじゃなくたって、そんなのどうでもいい。