近づいてきた気配に振り向こうとした瞬間、逆に後ろから覗き込まれて、すごい近くで目が合う。


「泣いてんの?」


近いよ!


「泣いてないよ」と答えて顔を背けたけど、伸びてきた手が頬に触れて、目尻を指が拭う。


「嘘つくなって言ってんだよ」


からかうように言われても、返す言葉が見つからない。声が、優しいままなんだけど。


「よければ石川さんに提案しとく」

「いいと思う」

「実際描くのは尚人だけどね」

「そうなの?」


驚いてシゲを見る。これすごくきれいなのに。


「この絵じゃ雰囲気違いすぎるだろ」


まあ、それはそうだ。でももったいないな、と思ってもう一度眺める。昔も、二人で描いたなぁ黒板に。


「次は一緒に描く?」

「うん」


今、同じこと考えてたね。シゲがまた口を開いたところで平井さんの声が聞こえた。


「シゲー? どこ行った?」


近づいてくる声に慌てたように少し離れて「ごめん、後で」と頭を軽く撫でて去って行く。


私はしばらくそのまま、同じ姿勢で固まっていた。頬に触れたり頭を撫でたり、今までそんなこと私にしたことほとんどないのに。