午後も作業を続けていたら、尚人くんに声を掛けられた。そういえば黒板が完成したって言うのまだ見てなかった。
作業場に一歩入って、息が止まる。
横長の黒板一面に、白いチョークだけで絵が描かれている。
白い鳥が黒板を埋め尽くすように、左上に向かって群れをなして飛んでいく。
シゲの絵だ。鳥の特徴を捉えた、力強い絵。
「ユリカモメってこんなに集団で飛んでくの?」
「渡り鳥なんだって。だからたぶん」
尚人くんに答えながら、目が離せなかった。
他には何も描かれていなかったけど、メッセージが伝わってくる気がして。
一羽、少しおかしな飛び方をしている鳥がいる。たぶん羽が傷ついているけれど、飛んでいる。上下左右を仲間の鳥達に囲まれている。一羽で飛んでるわけじゃない。支えられて渡っていく。
「私がどうしたいかだって、言ったのに」
小さく呟くと、斜め後ろから答えがあった。
「不満だったら描き直すけど」
「そんなこと言ってない」
振り向かずに答える。涙声になっていないといい。
電話で話してた数日間、会いたいってすごく思ってたのに。気まずくないように笑顔で会おうって決めてたのに。
尚人くんがすれ違いざまに私の頭をぽんと叩いて、作業場を出て行く。「触んな」とシゲが言ってるのが聞こえた。