「シゲも見たことないぐらい落ち込んでる。仕事はまぁやってるみたいだけど」
尚人くんが壁を塗る手を休めずに話す。シゲの話は聞いてないのかな。仲が良くても男同士はそういう話はしないのかもしれない。私も知られたくはない。
「あいつ結衣のことになると不器用だからさ、許してやってよ。なんかやらかしたんでしょ?」
「嘘ばっかりついてたから、本当のこと言っても信じてもらえなくなっちゃったの。シゲが落ち込むことないのに」
ぽろっと言ってから、あ、このままシゲに伝わったらダメだと思った。
「シゲには言わないで? もう嘘だと思われてていいことにしたから」
「なんで?」
「シゲが気にするから、嘘の方がいいの」
「そういうのをシゲは嫌ってるんじゃないの? あいつが信じるまで、本当だって言ってみたら?」
「もういいの。言っても意味ないってわかったから」
もう一つ嘘が重なったところで、もう同じだよね。
誰かを守るための嘘、ホワイト・ライ。本当は自分を守るためだったってもう気づいているけど。
終わらせ方がもうわからないから、重なったって構わない。