「でもまぁ、危機感を抱くのはいいことだよ。千帆は自分自身のことを軽く見てるところがあるからね。女の子なんだから、もう少し警戒心を持つ方がいい」


さっきまで笑っていたくせに急に真面目な顔をして言うから、なんだか調子が狂う。


たぶん心配されているのだということはわかったし、それが本心なのだというのも伝わってきたけど、素直になるのは癪だった。


「……それは、今もそうした方がいいってこと?」


だから、嫌味を込めて返してみたのに、クロはそんなことは気にも留めていないと言わんばかりに微笑んだ。


「俺は別に千帆に手を出すつもりはないけど、千帆にはそれくらいの警戒心は必要かもしれないね。自分みたいな奴に興味を持つ人なんていない、とか思ってそうだから」


うっ……と言葉に詰まったのは、彼に言われたことが図星だったから。


一応、塾の帰りには人通りのある道を選ぶようにはしているけど、常にしっかりと危機感や警戒心を持っていたかと言われれば、わりと呑気だったと思う。


「明日からはもう少し警戒心を持つこと。わかった?」


見透かすように呆れた笑みを零したクロに、素直に頷くのはやっぱり癪だったけど……。


彼から顔を背けながらも、首を小さく縦に振った。