「よく聞け、千帆。人は、高過ぎる壁を作ってる人間には、好意的な態度は取れない。最初は関わる努力をしてくれるかもしれないけど、それが一方的なものだとわかったら諦めてしまうことの方が多いから」


クロの口調は厳しく、その顔にはたった数日間で見慣れたはずの笑顔もない。


ただ真っ直ぐに私の瞳を見つめる彼の表情は、真剣そのものだった。


「だから、千帆みたいに自分はなんの努力もせずに受け身でいようとするなんて、わがままな話だよ」


「そんなつもりは……」


「ない? でも、千帆は俺との距離を縮めようなんて考えてないだろ? 俺と会ってくれるから少しは頑張るつもりなのかと思ったけど、千帆自身に努力する姿勢がないなら千帆は一生なにも変わらないよ」


厳しいままの声音で紡がれる言葉たちが胸の中に落ちていき、ひどく責められているような気持ちになった。


だけど、反論のひとつもできなかったのは、クロに言われたことはどれも図星だったからなのかもしれない。


変わらなければいけないと考えたし、それが1パーセントに満たないほど僅かなものだったとしても、“変わりたい”と感じた瞬間があったはずなのに……。


彼の言う通り、今の私には努力をしようという姿勢はまったくなかった。