「とりあえず、先に条件を話さないといけないか」


「条件?」


「一ヶ月間こうやって会ってもらうんだから、千帆にもメリットが必要だろ?」


「えっ!? 一ヶ月!?」


気づけば呼び捨てが定着していたことよりも、提示された期間に驚いて声を上げてしまった。


「あれ? 昨日言わなかった?」


「聞いてない!」


「あ、言い忘れてたか。ごめん、ごめん」


悪びれもなく笑うクロになにか言ってやりたいのに、「一ヶ月間よろしく」と当たり前のように言われて力が抜けてしまいそうになる。


「無理に決まってるでしょ! 私は今日だけだと思ったから昨日は不本意ながらも同意しただけで、一ヶ月なんて知ってたら絶対に断ってた!」


眉を寄せた笑みを前にして、クロが確信犯だったことに気づく。


「私、帰る」


「まあ、とりあえず俺の話を聞いてよ。千帆に損はさせないから」


どうやら私の名前を呼び捨てにすることは決定事項のようで、あまりにも自然に呼ばれたことに益々ペースを乱されて立ち上がるタイミングを逃してしまう。


クロは、自分のペースに巻き込むのが上手いらしい。


少なくとも、いつも他人とは一定の距離を保っている私のペースを簡単に崩してしまうくらいには……。