「千帆ちゃ──ちょっ、ちょっ!」


喜びを帯びた声が慌てたものに変わった直後、右腕を掴まれてしまった。


半ば強制的に足を止めさせられて立ち止まった私に、男性がきょとんとした顔を見せた。


「え、どこ行くの? 俺に会いにきてくれたんだよね?」


「……私はそこのコンビニに用があるだけです」


できるだけ冷静でいるように努めて淡々と話すと、彼は一瞬だけ目を見開いてから噴き出した。


「なにそれ。ツンデレ?」


「……は?」


「まあいいや。あっちのベンチに座ろう」


私が言い返すよりも早く決断を下した男性は、私の腕を離さないまま歩き出した。


よくよく腕を掴む人だな、なんて呑気に考えてしまったあとで、抵抗するのを忘れていたことを思い出したけど……。


「はい、座って」


彼は毒のない笑みを浮かべ、公園に入ってすぐのところにあるベンチに無理やり私を座らせた。


ひんやりとした感触が布越しに伝わってきた瞬間、ハッとして顔を上げる。


「わ、私はコンビニに──」


「それはもういいって。俺、あんまり時間がないから、君と早く話したいんだ」


少しだけ焦ったような言い方に眉を寄せると、彼はすぐに笑顔に戻って「なに話そうかなー」と零した。