「千帆」


左手を伸ばして私の右頬にも触れたクロが、両方の親指で涙を拭ってくれた。


「俺、千帆にすべてを打ち明けたら、なによりも伝えたいことがあったんだ」


“伝えたいこと”がなにかわからなくて目を瞬く私に、彼がふわりと微笑みを浮かべた。


「ありがとう」


予想外の言葉に瞳を見開く私を見つめるクロは、優しい笑みを崩さない。


「俺を拾ってくれたのが千帆で、本当によかった」


どうして……? だって、クロは私のせいで……。


「俺は千帆と出会えて、また人を信じられるようになった。だから、千帆にそれを伝えたかった。しかも、その経験が千帆の背中を押すきっかけになったんだ」


自分自身を責める私に投げかけられたのは優しさに満ち溢れた言葉で、私のことをどこまでも守ってくれようとする彼にまた涙が溢れ出す。


それなのに……。


「ほら、なにも悔やむ理由なんてないだろ? だから、泣くなよ」


クロがそう言って笑うから、彼を悲しませたくない一心で唇を噛み締めて必死に涙をこらえた。


ぶつかり合った瞳にお互いを映し、どちらともなく微笑みが零れる。


「ずっと、そうやって笑ってろよ」


私の顔は涙でグチャグチャだったけど、クロはとても嬉しそうに破顔した。