気づけば視線を一切逸らしていなかったクロは、いつからか私の瞳を真っ直ぐに見つめたままだった。


「それでも、少女は諦めずに猫と向き合い、誰も信じられなかったはずの猫は、その優しさに触れていくうちに少しずつ少女のことだけは信じられるようになっていった。そして、いつしか猫にとって、少女はとても大切な存在になっていた」


黒目がちの瞳がツキの瞳と重なって見える私は、どこかおかしいのかもしれない。


そんな風に思うのはまだ彼の話を信じ切れない気持ちがあったせいなのかもしれないけど、それはもう欠片ほどもないような小さな小さな疑心だった。


それほど疑いようもないくらいに、クロは私とツキのことそのものを語っているのだ。


「少女のおかげで、猫はまた穏やかな日々を送れるようになった。とても幸せだったし、少女には感謝していたけど、少女と過ごすうちにあることに気づいてしまった猫には、二年ほど前からずっと気がかりなことがあったんだ……」


息をゆっくりと吐いた彼は、眉を寄せて微笑を零した。


心配と悲しみが混じったようなその面持ちからは、息が苦しくなりそうなほどの切なさが伝わってくる。


そんなクロを見ていると泣きたくなって、胸に秘めた決意が崩れてしまいそうだった。