a・ri・ki・ta・riな雨の物語

 香奈の言葉に、もう1度昨日の記憶を辿っ
てみる。
 「CDが佐野主任の手に渡ったのが夕方で
女の子は次々と帰っていったのよね。
佐野主任もそのうち帰っちゃって、残ってい
たのは、私とつまづいて電源をおとしっちゃ
ったルミちゃんが、責任感じて少しだけ、社
内にいたけど、いつのまにか帰ってた」
 「他には?」
 「うーん、外出してた男性社員が戻ってき
たり出入りはあってけど・・・最終的には、
私1人の時間て多かったんだ」
 「その間、美和にアリバイなしか」
 おかずのウィンナーがのどにつまりそうに
なった。
 「ちょっ 香奈ー」
 「あは、ごめん ごめん」
 香奈が笑いながら言った。
 「その後、三島さんが帰ってきて、美和と
あんなことになって、前田くんが入ってきた
のよね」
 「うっ・・・」
 更につまりそうになった。
 「部屋のカギは三島さんがかけたんでしょ
う」
 「うん。警備のおじさんが、そう言ってた」
 私は、お茶で胃の中に流し込みながら答
えた。
 「朝1番にカギ開けたのは、佐野主任だか
ら・・・」
 「どうして、そんなに朝早いの?」
 香奈が不思議そうに聞いてきた。
 「佐野主任、朝一でネットやってるって噂
なんだけどね」
 「会社で?ありえない。それにしても、不
審者なんていないじゃない」
 私達は、暗礁に乗り上げてしまった。
 すると香奈は、何かを思い出したように
 「あっ」
 
 
 「どうしたの?」
 「ルミちゃんも、残っていたのよね。バイ
ト仲間の情報なんだけど、ルミちゃん××会
社の社員と会ってるとこ中洲で見かけたって
いう目撃情報があるのよ」
 「えっライバル会社の」
 「その人のことを好きなったゆえに、断りき
れず・・・」
 私達は、顔を見合わせたけど、すぐに却下
した。
 それこそ、テレビの中の世界だ。
 そんなありえない妄想してたら、突然香奈
の携帯がなった。
 ふと見えた、携帯の着信名に驚いた。
 「あっ町田くんだ。付き合ってるの?」
 「まっさか」
 香奈はそう言った後慌てて携帯に出てた。


 やっぱりルミちゃんじゃないよね・・・
 私と一緒だった訳だから。
 第一佐野主任のパスワードなんて知らな
いだろうし・・・
 私は、キーボードを打つ指に力が入りつ
つ、ルミちゃんを見つめながら、あれこれ考
えていた。
 でも・・・そういえば、ルミちゃん昨日か
ら少し様子が違っていたような・・・
 「うーんわかんない」
 そんなこと考えているうちに、いつの間に
か終業のベルが鳴った。
 ルミちゃんは、さっさと帰り支度を始めて
いる。
 わたしは、そんなルミちゃんの後を追った

 おとといの記憶。
 私がトイレで席を立った時、その時だけ、
ルミちゃんは、社内でひとりになる時間があ
った。
 私が席に戻った時、心なしかルミちゃんは
変で、その後すぐに帰ってしまった。
 ルミちゃんと話がしたくて、追いかけてい
たら、いつのまにか中洲にきていた。
 中洲といえば、福岡では、眠らない夜の町
的雰囲気があるのだけど・・・
 ルミちゃんは、軽やかに、階段を上りキャ
バクラのドアを開けた。
 「うそっバイトしてるの?」
 私が、中洲の中心にあるルミちゃんが入っ
た雑居ビルをまじまじと眺めていると、突然
私の前に黒服の男がやって来てにっこり微
笑んだ。
 わたしも、つられて愛想笑いをしたものの
 「バイト希望の子でしょう」
 「いえ、ちっ違います」
 大げさに身振りをいれて否定したのに、
 「あら何言ってるの。面接の予約をした子
でしょう。遅かったわねー待ってたのよ。」
 一見イケメン風なんだけど、話かたは、女
っぽい。
 
 「ホントに違いますから」
 「あーら怖がらなくていいのよ。面接だけ
でも受けてみなさいよぉ」
 「いえーいいですー。いいですったらー」
 満面の笑顔と、ものごしやわらかなおかま
言葉とは、裏腹に、強引にお店の中につれ
こまれたのだった。
 そうこうしてる間に、面接に受かって、源
氏名までついちゃった。
 赤を中心にコーディネートされた店内は、
広くてゴージャスなつくりをしていた。
 あちこちのテーブルで、華やかな女の子達
が、にぎやかに接客をしている。
 ルミちゃんもこの中にいるはずだ。
 こうなったらしかたない。
 サイドに大きくスリットが入った、ピンク
のチャイナドレスに身を包み。
まだまだぜんぜんイケテルじゃない。
 なんて、思いながら勢いで、男性の横に座
った。


 

 
 「いっいらっしゃいませ・・・?????
わっ!公平」
 お互い、顔を見合わせて、しばらく声を失
った。
 あたふたしている私に
 「何やってんだよ。おまえ」
 公平がようやく口を開いた。
 「ちっちょっとルミちゃんのことが気になっ
て、つけてたら、こうなっちゃって・・・」
 「おまえいつもそうだよな。学生の時から、
いつも後先考えずに行動して、ばっかじゃね
ぇか」
 「ばか・・・?じゃあ公平は何なのよ。学生
の時からエロかったけど、いつもこんなとこ来
てるの?」
 「ばか。ちげーよ」
 「ばかばか言わないでよ」
 最悪の雰囲気。
 長い沈黙・・・
 手持ち無沙汰で周りを見てみると、女の子
達が甲斐甲斐しくお世話をていた。
 するとまたあの黒服の男が、お酒を勧めて
というジェスチャーを私にしてみせた。
 えーこんな時に・・・
 しかたなく、ウィスキーの水割りを、おぼつ
かない手で作り始めた。
 公平が横だと、おぼつかない手が更にお
ぼつかない。
 「いいよ。作らなくて」
 そう言って公平は、私の手からグラスを取
り上げた。
 うわっこわっ・・・
 取り上げたグラスで、水割りを勝手に作っ
てるけど、作り方も怖い・・・
 最悪の雰囲気は、収まるどころか、更にひ
どくなっていった。
 そんなところに、おかまの黒服さんがやっ
てきて、訳もなくホット一息ついたけど。そ
れも束の間。
 「チェリーちゃん5番テーブルご指名よ」
 チェリーちゃん?
 あっ私の源氏名だ。
 「えっ指名?」
 さっきの満面の笑顔で、黒服さんの指差し
た方向を見ると、5番テーブルで手を振って
いるおじさんがいた。
 見るからに、いやらしそう・・・
 さいあく・・・
 しかたなく、立ちあがって行こうとしたら
すぐさま公平に腕を掴まれた。
 「行くな」
 視線を落として、そう言う公平の手には、
力が入り過ぎてて、痛かった。
 「行くな!」
 「だって・・・」
 「オレ、この人気に入ってんだ」
 公平は、私の腕を掴んだまま黒服さんに交
渉し始めた。
 「じゃあ、指名料がかかりますが、1時間
1万円でございます」