開いて、傘も持たずに誰かが、こっちに向か
ってきている。
 「前田くん」
 森田さんだった。彼女は、私を全く無視し
た。
 傘がない森田さんに、公平が傘を傾けてい
た。
 そんな2人の中に、何か部外者が入っては
いけないようなものを感じる瞬間だった。
 「森田、そういえば、さっき何か話がある
って言ってたよな」
 「前に、前田くんが見たいって言ってた映
画の試写会のハガキ、急に行けなくなったっ
ていう総務の子から譲ってもらったから、ど
うかなって思って」
 「ごめん、今日ダメなんだ」
 「そう、残念。また今度誘うわ」
 短い会話だった。会社の中に戻る瞬間、森
田さんは、チラっと私の方を見ていった。
 今はっきりわかった。