もともと仕事する気分じゃなかったので、
早々に切り上げることにした。
 私は、ホテルのカギを握り締めながら、も
う後戻りできない決心を固めていた。
 会社のビルを出て、地下鉄の駅まで、アー
チ型の屋根のついた歩道の下、いろんな雑
念を振り払いながら、歩いていた。
 時々足が、もつれそうで・・・
 あの後、降り始めた雨は、まだ降り続いて
いた。
 「美和!」
 いきなり公平の声がして、心臓が止まりそ
うになった。
 別に、やましいことなんてないから、動揺
する必要なんてないけど、今ほど、公平の顔
みたくない日はなかった。
 そんな、心境なのに、傘も持たずに、私を
追いかけて来てくれた公平が、目の前に立
っている。 
 「どっどうしたの?」