あれから2ヶ月が経った。
私の日常は変わりなく、幼稚園と自宅を行き来する日々。
運動会や遠足と、園の行事を可愛い園児たちと笑顔でこなす。
元カレ洋佑との仲も、同じ職場の教師として良い関係を築けていた。
意気消沈していた姫もやっと以前の生活を取り戻し、
栄養士として元勤務していた専門学校に戻っている。
堅物でおしゃれとは無縁の「型破り博士」はどこへやら、
女らしさが加わった姫と、今では普通にファッションの話をしてる。
沙都ちゃんはフランス、イタリアと海外出張もこなし、
今でも世界を渡り歩くアクティブ娘として活動。
ナイトさんとのラブラブぶりは相変わらずで、
見てるとこっちが照れくさくなるくらい。
密かに私と姫の憧れのカップルでもあるの。
ただ、ひとつだけ大きく変わったのは、
あの日以来、ニキさんからの連絡が途絶えたこと。
休日のある日。
沙都ちゃんと姫との三人で、またランチに出かけた。
ずっと私たちが変わらずやってきた休日の過ごし方。
イタリアンレストランを出た私たちは、
久しぶりに荒川の傍にある公園で過ごし、
コンビニで買ったカフェラテを飲みながら、
鴻美さん事件や今までお互いが抱えていた胸の内を話す。
二人の話を聞きているうちに、
ぼんやりと驚愕の夜のことを想い出していた。
ニキさんの過去に舞香という名の彼女が居たことも。
<回想シーン>
(JR新日本橋駅裏路地)
鴻美 「私が良い人間な訳ないわよね?
ねぇ、仁木。
私はあんたの彼女、舞香をボロボロにして、
仲違いさせた張本人なんだから」
向琉 「黙れ。それ以上何も言うな」
伊吹 「えっ。ニキさんの彼女……って
(舞香さんって誰!?)」
鴻美 「あら、知らなかったの?
仁木、話してやったら?」
向琉 「いいから黙ってろ」
鴻美 「舞香っていうのはね」
向琉 「黙れ!!」
伊吹 「ニキさん。舞香って誰?
もしかして、今も彼女なの?」
向琉 「んな訳ないだろ。
それにそのことは君には関係ない」
伊吹 「関係ないって……」
騎士 「おい、ニキ。どうした?」
警察官「山本鴻美さんですね。
貴女にも詳しく事情を聞きますので一緒にきてください」
鴻美 「はい。わかりました。
じゃあね。ちゃんと仁木に真相を聞きなさい。
お節介の伊吹さん(笑)」
伊吹 「鴻美さん!?」
鴻美さんの許へ行こうとする私の腕を掴んで、
ニキさんは力いっぱい引き留める。
向琉 「おい。いい加減にしろ!
おかしいんじゃないのか!?
この状況をよくみろよ!
自分がさっき何言ったのか解ってるのか!?
どうしてここまでの騒ぎになったのか。
頭を冷やして冷静に考えてみろよ!」
伊吹 「分かってる!
理解した上でお願いしてるのよ。
鴻美さんにチャンスをあげてほしいの。
このまま警察に連れて行かれても、
憎しみは残ったままでまた繰り返される。
法で解決させようとしたって何の解決にもならないのよ。
本当に終わらせるには、
彼女の心にある問題を解きほぐすしかないの。
きっと穏やかに話せば鴻美だって解ってくれる」
悠大 「伊吹ちゃん、無茶言うなよ。
ニキの言う通りとにかく落ち着こう。なっ!」
向琉 「ふん!理解ね。
あいつは君の生徒か?
ここでも教師ぶるつもりなのか。
あの女は君の園児でも何でもない。
分別のつく立派な大人なんだ!
君だって被害者のひとりだろ。
姫ちゃんの状況も見てただろ。
過ちを犯せば裁かれる。
それこそ、あの女はそれを真摯に受け止めるべきだ!
何年間と自分がやってきたことの罪の償いをな」
伊吹 「そんな……
じゃあ、聞くけどお兄さんは罪人じゃないの?
ニキさんのお兄さんに傷つけられた彼女は泣き寝入りなの!?
彼女の純粋な気持ちを踏みにじった相手は何も裁かれないわけ。
それに何故、私に舞香さんのこと隠すの!?
疾しいことがないなら、何があったのか言えるはずでしょ。
彼女も鴻美さんの被害者だったのなら、もしそうなら、
舞香さんだって私たちが救ってあげられるかもしれないわ」
向琉 「なんだ、正義感か。
スーパーヒーローにでもなったつもりなのか?
ふっ(笑)話にならないな」
騎士 「伊吹ちゃん。あの女に何を言われた?」
伊吹 「ナイトさん、お願い!
彼女がこうなったのには深い訳があるの。
鴻美さんを何とか助ける方法を」
騎士 「伊吹ちゃん、それは難しいよ。
どんな理由があったとしても御咎めなしなんてことはない。
彼女が直接関与してなかったとしても、
姫ちゃんにしたことも含めて、
他でも彼女が関わった事実があれば、
罪はそれよりも確実に重くなる。
売春防止法で軽くても“2年以下の懲役または5万円以下の罰金”
もしも懲役を逃れたとしても裁判所が許可して、
保釈保証金を納めてからでないと釈放されることはない。
彼女を助けることができるのは、彼女につく弁護士と身内だけだ。
どちらにしても僕らが助けることなんてできないよ」
悠大 「伊吹ちゃん、わかっただろ?
罪を償えば更正の機会はあるんだから。
アダムも!そうカリカリすんな。
伊吹ちゃんもショッキングなシーンを見てきっと動揺してるのさ。
後は警察に任せて俺たちはうちに帰ろう。なっ」
騎士 「そうだ。とにかくうちへ帰ろう」
ナイトさんがうまくこの場を治めて、ニキさんの車を運転し、
ナイトさんのマンションへ向けて車を走らせた。
私はユウさんと後部座席に座り、気を遣っていたのか、
ユウさんは、先ほどの話には一切触れずに、
自分が以前受講した護身術のことをずっと話してくれていた。
助手席のニキさんはそれからしゃべることはなく、
ずっと前を向いたまま座っていたのだった。