(都内某所、ファミレス店内)


そしてその頃、
姫は家の近くにあるファミレスで鴻美さんと話をしていた。
ニキさんが言った『伊吹さんを渡したくない』という言葉に、
大きなショックを受けたことや、私にニキさんを奪われた辛さ、
親友と好きな人を同時に失うかもしれない悲しみを、
泣きながら必死で訴え、
鴻美さんはそれを穏やかにうなづきながら聞いている。


鴻美「そう……それは辛かったわね。
  でもね、姫奈さん。正直に言うけど、
  伊吹さんは貴女の本当の親友じゃなかったのよ」
姫奈「えっ。本当の親友じゃなかったって?」
鴻美「そうよ。だって、あの人。私の恋人も奪った女だもの」
姫奈「えっ!?伊吹が!?それってどういうことですか!?」
鴻美「私の彼は向琉さんの先輩で、
  向琉さんのお兄さんの翔琉(かける)さんの大親友なの。
  私の冬季也を奪って、今度は向琉さんに手を出して……
  伊吹さんってなひどい女なのよ」
姫奈「そ、そんなことを伊吹がしたんですか!?」
鴻美「ええ。あっ、そうそう。
  それに、この間はまた違う男を家に連れ込んでて、
  彼女のアパートから出てきたところで、
  向琉さんとガチあっちゃったのよね」
姫奈「あの、ニキさんは、
  もう伊吹のアパートに出入りしてるんですか」
鴻美「ええ。二人の仲は親密で頻繁に出入りしてるみたいよ。
  私が知ってるだけでも、
  動物園以外で二回は一緒に居るのを見たの。
  その男性と向琉さんが彼女を巡って、
  それはそれはライバル心むき出しの火花を散らして凄かったわ」
姫奈「そんな……それって、動物園が初めてではなくて、
  以前から二人はそういう仲だったってこと。ですよね」
鴻美「そういうこと。
  姫奈さんって本当に人がいいんだから。
  はぁーっ。
  しかし、伊吹さんって図太い神経した恐ろしい女性よね。
  三人も相手してるのに、まだ他の男性と付き合おうなんてね」
姫奈「……」
鴻美「姫奈さんは何も知らなかったのね。
  貴女、彼女に利用されちゃってたの。
  親友だったらその男性のことも知ってると私は思ってたけど、
  これで彼女の実態がわかって良かったと思うわよ」
姫奈「伊吹、ひどい。
  よくも私を裏切ってニキさんをも騙して。
  しかも、鴻美さんの婚約者まで奪うなんて!
  私、絶対許さないわ!」
鴻美「そうよ。許しちゃだめよ(微笑)
  でも貴女には私がついてるから、
  お互いあの女から彼を取り戻して、
  二人で小悪魔を懲らしめてやりましょう」
姫奈「ええ。
  鴻美さん、色々教えてくれて本当に助かったわ。
  私の悩みまで聞いてくれてどうもありがとう!」
鴻美「うふっ(笑)ありがとうなんて。
  友達ならそんなこと当たり前のことでしょー?
  (仁木向琉。愛羽伊吹。川辺冬季也。
  あなたたちに逃げ場なんてどこにもないのよ)」



姫は頂点に達した怒りに顔を真っ赤にして、
膝の上でこぶしを強く握りしめた。
鴻美さんは紅茶のカップを両手で持ち、お淑やかに飲み干す。
そしてテーブルの上にゆっくりカップを置くと、
バックの中から扇子を出して仰ぎながら、
姫の擁護するように話しかけた。
女の計算しつくされた言葉で、姫は完全に騙され囚われたのだ。
薄笑みを浮かべながら時折、窓の外に鋭い眼光を放つ鴻美さん。
その怪しい微笑みと威圧感は、
まるで三叉槍を振りかざす悪魔を彷彿させ、
その囁きは暗闇の街並みを鋭く突き抜けて、
私とニキさんに忍び寄り、すべてを戦慄させる呪文のようだ。


(続く)