警察は現場の様子から、自然発火の可能性は極めて低く、放火であるとの見解を示した。

不審人物の目撃情報は複数寄せられたものの、証言は人により食い違い、曖昧なものであった

いまだ犯人は見つかっていない。

わたしはあの火事の夜を、そして陸のことを何度も繰り返し思い出す。
 
刺青でも入れたかのように、一度私の中に彫られた記憶は鮮明で頭から消えることはない。
 
その刺青は普段、服の下に隠されている。
 
だが少し服をめくればくっきりとした存在感をあらわにするのだ。


 
「顔が死んでいたよ。写真撮れば良かったな。待ち受け画面にいいんじゃない」

「やめてよ。ちょっと考え事をしていたの」
 
美希と駅までのカフェで待ち合わせしていたのだ。
 
少し早くついて独りでコーヒーを飲んでいるうちについあの日を思い出してしまった。

わたしは美希の心配そうな視線に気づいていた。それでも美希にすら詳しく話す気にはならない。

「じゃあ行こうか」

美希が笑顔でわたしの腕をとった。