それから6~7回ほどジムのアルバイトをした。

まだまだ覚えることはあるのだが、だいぶ慣れ、どのような仕事があるのかをおおむね理解できていた。

片瀬さんとは数回出勤日が一緒だった。

場所が違うため、受付からちらっと見えただけで一度も会話を交わしていない。

だが少し離れたところにいても見つけてしまうのだ。

そして片瀬さんの中に陸を探しているのだろう。以前陸を目で追っていたように。

わたしは片瀬さんと話してみたいという衝動がふつふつと自分の中に湧き上がってくるのを感じていた。

チャンスは突然降ってきた。偶然片瀬さんと帰りが一緒になったのだ。

私は元来人見知りであるため、普段ならば下を向いてちらりちらりと相手を窺がい、追いつかぬよう細心の注意を払いながら、一定の距離をつくって後方を歩く。

あるいは急いでいるかのように装い、挨拶だけして小走りに先を行く。

それでもこの日は目の前に片瀬さんを見つけると、自分にあるありったけの勇気をふりしぼって追いかけた。