第四章 寂寞 ⑧

 彼方と蒼衣はあれからすぐに仲良しになり、私と三人でよくつるむようになった。私たちは三人とも部活に入っていないので、放課後はそれぞれの家に遊びに行ったり喫茶店でお茶をしながらテスト勉強をしたりした。つまり、どこにでもいるような普通の女子高生をやっていた。けれどその当たり前の日常が、今の私たちにとっては特別な時間だった。
「二人はさ、将来やりたいこととかあるの?」
 彼方がいつになく真面目な声色でそう訊い次の日、蒼衣は私の通う浜辺高校に編入してきて、偶然にも私と同じクラスになった。
本当は帰ってきたことを今日まで私に秘密にして驚かせたかったらしいが、昨日ばったりと再会してしまったのでそういうわけにもいかなかった。それでも彼女が浜辺高校に通うことになるなんて思ってもいなくて、十分驚いたけれど。
「N県から来ました、山里蒼衣です。よろしくお願いします」
 朝のホームルーム、蒼衣が教壇の上で一礼するとぱらぱらとまばらな拍手が湧いた。転校生が来た時の何とも言えない独特な雰囲気。彼女は先生から空いていた一番後ろの席に案内されて着席した。
「二年の途中から編入してきて山里も心細いだろうから、皆仲良くしてやるんだぞ」
 私のクラス、二年一組の小島先生が一言そう言ってホームルームが終わった。
 終わりの号令と同時に何人かのクラスメイトたちが蒼衣の周りに群がって質問攻めにしていた。
「ねえ、山里さんは出身もN県なの?」
「好きなアーティストとかいる?」
「蒼衣ちゃんって呼んでもいい?」
 蒼衣はこれらの質問に一つ一つ愛想よく丁寧に答えていた。私は蒼衣が自然な笑顔で初対面の人と接しているところを見て、昔とは変わったなと思った。きっともう、蒼衣の中に昔みたいな寂しさはない。蒼衣が私と離れ離れでいた間、ちゃんと笑って生きてきてくれたんだと分かると無性に嬉しかった。
 転校生の蒼衣に一通り質問をして満足したクラスメイトたちは一限目の準備をするためにいそいそと自分の席に戻っていく。私はその中で一人だけ蒼衣の前から動かないポニーテールの雪野彼方の姿が目に入った。彼女は蒼衣に一言、
「放課後、ソフトクリーム食べに行こ」
 とだけ言って席に着いた。
 蒼衣は最初、彼方の唐突な誘いにポカンとしていたが、彼方が席に戻ってから嬉しそうに微笑んでいた。私も彼方の言葉を聞いて、思わずふふっと笑ってしまった。

「う~ん、やっぱりここのソフトクリームは格別だよね!」
 彼方は『太田アイスクリーム』で買った抹茶味のソフトクリームを、幸せそうな顔をして食べている。
「ほんとだ、すごくおいしいね」
 隣では半ば強制的にアイスを食べる羽目になった蒼衣がイチゴ味のアイスを頬張っていた。ちなみに私は王道のバニラ味。
 彼方が蒼衣に声をかけて放課後の付き合いに誘ったのは意外だった。確かに彼方は明るくて親しみやすい性格だけど、案外私と二人きりでつるんでいる方が好きだと思っていたからだ。その証拠に、去年矢野のことで私と話しづらくなった時期、彼方は他の友達といようとせず、あえて一人でいることが多かった。
「やっちゃんはさ、N県から来たんだよね」
 ソフトクリームを食べ終わった彼方が口を開いてそう言った時私と蒼衣の頭にはきっと同じ疑問が浮かんでいたと思う。
「…やっちゃん?」
「ああ、えっとね、山里だから『やっちゃん』」
 時々思うけれど、彼方は色々考えていそうで全然考えてない。
 けれど蒼衣はその呼び方が気に入ったみたいで、彼方に向かってにっこり微笑んだ。
「ええ、N県に住んでたわ」
「それなら、この辺はあんまり詳しくないよね。今度案内しようか!」
「ありがとう。でも私、中学までこの辺に住んでたから案内はしてもらわなくて大丈夫よ」
「え、そうなの⁉だったら浜辺高校に知ってる人多いんじゃない?」
「残念ながら、それはないよ」
 私は蒼衣の代わりに彼方の率直な疑問に答えた。
「どういうこと?」
「だって私の中学から浜辺高校に進学したのは私一人だもん」
「あ、そういうことか…て、二人は同じ中学校だったの⁉」
「うん、中学校だけじゃなくて、小学校も一緒。だから蒼衣とはとっても仲良しよ」
 私が笑ってそう言うと、彼方は「なあんだ」と合点がいったような顔をした。
「どうしたの彼方、なんだかほっとしてるみたい」
「だってそういうことなら、あたしがわざわざ二人を近づけなくて良かったじゃん」
「え?」
「あたしはやっちゃんを見た時、やっちゃんと高ちゃんの雰囲気がどことなく似て