月刊カミツレの編集部は騒然となった。



「エゴイスト」の作家であり、カミツレ唯一のサスペンス作家、大木りんが、カミツレ敏腕編集者、柏原誠司を引きずって歩いているのだから、当然と言えば、当然かもしれない。



しかし、そんな中でも窓際のひと際大きなデスクに足を組んで座ってコーヒーを飲んでいる、三村桜子こと、編集長は、私たちを一瞥しただけで動じない。



笑顔を見せることもない。かといって、にらみつけることもない。



真顔。お盆のお墓参りで、他人のお墓の前を素通りするときと同じような真顔。



「編集長!」



「あら、りんちゃん。どうしたの?」



相変わらずの真顔で、威圧感がある。ここまでの度胸がないと、ここ花の名社の看板雑誌、月刊カミツレの編集長なんて務まらないんだろうなと思う。



しかし、私はめげない、負けない。



「私の短編、どうでしたか?」



ここでやっと編集長はほくそ笑んだ。それも、人を小馬鹿にするような、嘲笑に近い笑み。



「私って、連載会議みたいな厳粛な話し合いって嫌いなの。だから、いつも担当編集のプレゼンと、自分の直感を信じて、アリナシを判断するのよ。その間、わずか1時間弱ってところかしら。りんちゃん。あなたは一時間弱、トイレを我慢できる? 柔らかい素材とはいえ、椅子に腰かけて会社の命運をかけた話し合いを真面目に聞くことはできる?」



顎に手を置く編集長の言葉は、純文学じゃないだろうかと思うほど、何か含みのある言葉だった。