「主人公の考え方が僕と重なる部分が多くあってね。例えば、『他人の真の理解者になんてなれはしない。理解したと思ってもその人のカケラほどもない、ほんのごく一部にすぎない』とかね。二十六ページから引用」

 「あー、言われてみればあのひねくれ方は倉木くんそのものに近いわ。あそこは読んでてすっごく気持ち悪かったんだよね。多分倉木くんを思い出したからだろうね。あとページまで覚えてるのはさすがに引くわ」

 苦虫を噛み潰したような表情を柚木は浮かべた。あからさまに崩れた顔に可愛さは一切見られなかった。

 「僕を思い出して気分が悪くなったって、ひどいな。いつもに増して毒舌なのは柚木のほうじゃないか」

 僕に対して厳しい言葉ばかりぶつけるのはいつものことだけど、今日はかなり辛辣だ。柚木に対して幻想を抱いている男子であれば、こんなことを言われてしまえば死んでしまうだろう。

 「倉木くんだからこそこんなふうにためらいなく言葉を殴りつけることができるんだよ。ほら、変に気を遣って面白くしようとしたりとか、メールで顔文字を使ったりとか、そういうのは相手との間に一定距離があるからでしょ?逆に親しくなればそういうのはなくなるじゃない?」