「ていうか、葛城奏とか読むんだ。むしろそれが意外」

 傷ついたと言わせてもらう間もなく、柚木は本のほうに話題を移していた。少しは話す隙を与えてほしい。

 「似合わない、とでも言いたいのか?」

 葛城奏の作品は最新作を含めて四作出版されている。デビュー作の『空が消える前に、僕は君に会いに行く』から今作の『忘れること、忘れられること』まで、ジャンルはすべて青春ものだ。僕が読むにはきっと不相応なストーリーばかりだと思われているのだろう。

 「いや、そんなことは言ってないよ。思ってはいるけど」

 「いや、思ってるのかよ」

 柚木にはいったい何度傷つけられればいいんだろう。そろそろ胸の傷痕が物理的に浮き上がってきそうだ。

 「『空君』はいいよね。二人の再会が無事できた場面は泣いたよ」

 「その略し方を知っているところ、柚木もよく読んでいるんだな。というか、柚木も泣いたりするんだな」

 「うわ、失礼な。私だって女の子なんだから、泣くに決まってるじゃん」

 僕の前ではあまり感情を表現したがらない彼女だから、単純に意外だった。あとは、たまにはからかってみたかった。