「今日は葛城奏の最新刊を買いに行くんだ。どうも僕は何かしら読み物がないと酸欠になってしまうみたいでね」

 「なってないじゃん」

 「比喩だよ。そのくらい分かってくれよ」

 「正しくは直喩だと思うけどね」

 いつの間にやら、僕は柚木に暇を捧げてしまっていた。きっとあとから疲れが生じるに違いない。下手な筋肉痛なんかよりもずっとタチが悪くて困る。

 「そんなことはどうでもいいんだ。とにかく僕は本を買うという目的があるから、いつもよりはだいぶマシに見えるんだと思う。まあ、こんな孤独な男子生徒の微々たる変化に気がつくのは柚木くらいのもんだろうけどね」

 「まあねー。なんで私もこんな奴を気にかけているのか不思議で仕方ないよ。人間関係大嫌い、生きる目的なしの空っぽ野郎を気にかけている暇があったら、多分一日のうち半分くらいは自分の時間をつくるころができると思うよ」

 「いや、僕のこと気にしすぎでしょ。さすがに気持ち悪いから。告られる前にごめんなさい」

 「いや、自意識過剰すぎるから。倉木くんのこと好きとかさすがに見る目なさすぎだから。告られるなんて妄想しているところごめんなさい」

 言葉に棘があるというのは今の彼女にぴったりな気がする。