「作曲から170年以上経っているのに、録音しているピアニストは、たった4人しかいない曲よ……もし、失敗したら不合格になる……ことを承知の上で、この難曲を弾いているのよ。スゴい自信っていうか、信じられないわ」

志津子の声は興奮気味で上擦っていた。

「ウソっ……彼、スゴい熱だったわ。手が火照って熱かったし、手すりに掴まって歩いてたのよ。理久っていう人が背負って……」

志津子は目を白黒させた。

「そんな状態で、この演奏ができるの? しかもこの曲で……ミス1つしていない」

「本当なの?」

「間違いないわ、この曲は何度も父のレコードコレクションで聴いているもの……それにレコードで聞いた演奏よりも上手いわ」

信じがたい話に、志津子の父親の仕事を聞いてみる。

「サウンドクリエーター、効果音やBGMを作ってるのよ。ゲーム音楽やCM、映画とかの色んな音を作る仕事」