低音を続けて弾いているとは思えない激しさは、暴動に突き進む兵士や民衆の足音のように聞こえた。

前の学生の演奏では、雑音にしか聴こえなかった箇所だ。

わたしは一気に演奏に引き込まれ、直感した。

──詩月くんの演奏だ

あんな状態で……何事もないように弾いている詩月くんの技量に唖然とし、溜め息も出てこない。

曲が中盤に入っても、始めからミス1つしていない。

どれほど弾きこめば、ここまで完成させられるのか、手が小刻みに震え冷たくなっていた。

あたかも革命のさなかに、引き摺りこまれたような錯覚を覚えるほどの演奏だ。

曲の終盤に入り、志津子が「テンポが乱れた」と言い、ハラハラした。

でもロボットではない、生身の人間らしさを感じてホッとした。

詩月くんは何とか調子を戻し、最後まで弾ききった。