「試験は時の運でしょっ」

「冗談じゃない……No……que……Nase」

「えっ!?」

咳とひどい嗄れ声と日本語ではない言葉で上手く聞き取れなかった。

「何が何でも……ラ・カンパネッラ――鳴らしてみせるさ」

「すごい負けず嫌いね。会場、どこ?」

「……大学の第1音楽室」

「詩月!」

詩月くんが答えた直後、頭の上を低音の声が響いた。

詩月くんはハッと振り返り「理久?」と見上げて呟いた。

「棄権して一般入試受けりゃいいのに、ったく無茶しやがる」

理久と呼ばれた人は愚痴を言いながら彼を背負って立ち上がり、わたしを見下ろした。

「最近、よく見るな。詩月のファンか? 演奏聴くなら最前列で聴け」

フッと笑って歩き出した。

──何が何でも

詩月くんが咳混じりの頼りない息遣いの嗄れた声で言った言葉に、神の鐘が高らかに鳴り響けばいいと思った。