膝に手を当て、前屈みになった拍子に、手にしていたファイルから楽譜が零れ落ち散乱した。

「あっ……」と掠れた詩月くんの声が聞こえた。

楽譜を素早くかき集め、彼に手渡す。

楽譜を受け取る彼の手は火照り、ひどく熱かった。

「詩月くん!?」

彼の体が小刻みに震え、唇の色が失せ歯がガチガチ鳴っている。

膝を押さえて立ち上がろうとし、激しく咳こんだ。

慌てて彼の背中を擦る。

「こんな状態で演奏なんて無理」

思わず零した言葉に彼の肩がピクリと動き、わたしの手を掴んだ。

「無理かどうかは自分で決める。せっかく1ステージ与えられてるんだ……どんな状態でも弾いて見せる」

詩月くんは肩を忙しく上下させ、喘ぎながら息をつき、きっぱりと言い放った。

「でも、『革命のエチュード』なんて難曲……」

「周桜Jr.というくだらないレッテル、引き剥がしてやる……」