「課題曲はショパンの『革命のエチュード』よ」

志津子は呑気に言う。

「難しい曲でしょっ、指が吊りそうなくらい」

『革命のエチュード』はロシアがワルシャワ侵攻後に作曲した曲で、祖母から「ショパンは暴動に参加することができなかった怒りの感情を表現したのよ」と、聞いたことがある。

左手のアルペジョと滑らかなポジションチェンジの練習のための曲で、超絶技巧曲として有名だとも聞いた。

「そうね、『木枯らし』と並ぶくらいの難曲だけど、周桜くんは完璧に弾くと思うわ」

「課題曲と自由曲にショパンを弾く方が有利とかあるの?」

「一貫性があったほうが心象はいい気がしない? 緒方さんは自由曲にもショパンを弾くみたい」

緒方さんのことはどうだっていいのに、詩月くんの周りで緒方さんの話をよく聞くし、姿をよく見かける。