「ヒッ、詩……詩月くん!?」
志津子が「ね、あんな調子ですもの」と耳打ちをする。
彼はエントランスホールへは向かわず、廊下を右に曲がった。
「エレベーターで? あのエレベーター、許可なしに使っちゃいけない……」
「周桜くんは許可をもらっているのよ。上りは階段をほとんど使わないみたい」
相当なファザコンだとわかったのも衝撃的だったけれど、階段をほとんど上らないという情報もショックだった。
祖母がどれほど気を使い工夫しながら、彼を指導したのか、気苦労が絶えなかったにちがいないと思う。
弔問の時の穏やかな印象とは違う詩月くんの取っ付きにくい様子にも、胸が痛かった。
「いつもはあんな風ではないのよ。ショパンや周桜Jr.やお父さんのことになると、あんな感じになるの」
「彼のショパンを聴いてみたくなったわ」
お愛想ではなく本気でそう思った。
志津子が「ね、あんな調子ですもの」と耳打ちをする。
彼はエントランスホールへは向かわず、廊下を右に曲がった。
「エレベーターで? あのエレベーター、許可なしに使っちゃいけない……」
「周桜くんは許可をもらっているのよ。上りは階段をほとんど使わないみたい」
相当なファザコンだとわかったのも衝撃的だったけれど、階段をほとんど上らないという情報もショックだった。
祖母がどれほど気を使い工夫しながら、彼を指導したのか、気苦労が絶えなかったにちがいないと思う。
弔問の時の穏やかな印象とは違う詩月くんの取っ付きにくい様子にも、胸が痛かった。
「いつもはあんな風ではないのよ。ショパンや周桜Jr.やお父さんのことになると、あんな感じになるの」
「彼のショパンを聴いてみたくなったわ」
お愛想ではなく本気でそう思った。