「遊びで弾いてるだの、余裕で弾いてるだのと好き勝手に言われながらも、周桜は周桜なりに自分の練習方法を貫いて必死に演奏しているんだ」

へぇ~と声を上げそうになり、口を押さえ志津子の顔をのぞきこんだ。

志津子は大きく頷いていた。

「それに素人ははっきりしている。下手なら愛想を尽かし耳を貸さないし、つまらない演奏とわかれば演奏途中で去っていく。こんな所なら尚のこと、モルダウのような温室とは違う。周桜は1人で戦っているんだ」

街頭演奏を勧めた祖母の思いを改めて考えながら、安坂さんと緒方さんを見つめた。

緒方さんの瞳から大粒の涙が溢れ、頬を伝っていた。

「そんな孤独の中で、周桜は聴き手を惹き付けて、これほどの演奏をする。ピアノもヴァイオリンも、リリィさんの教えはどれほど凄い教えだったんだろうな」