安坂さんの声はひどく冷たかった。


「素人相手でも、人様の前で演奏するんだ。聖諒の音楽科で、天才ピアニスト周桜宗月の息子という看板もある」

安坂さんの言葉に力がこもる。

「本番でこの演奏がどう化けるのか? を考えると、俺は身震いが止まらなくなる。もし周桜がコンクールの舞台で、本気の演奏をしたら……そう思うと、いくら弾いても足りない。彼には敵わない気がしてくる」

大学のオケ部次期コンマスの呼び声も高い安坂さんの真剣な声が、詩月くんの実力を物語っていた。

「演奏に納得がいかないなら練習室を出て、街頭で聴き手を前に弾いてみるのもありなんじゃないか? 周桜の演奏を聴いてると、そんな風にも思えてくる」

――安坂さんは詩月くんの街頭演奏の意味に気づいている。お婆ちゃまの思いに気づいている

心が震えた。