「どうだったの!?」

「……負けられないと本気で思った」

「貢が!?」

詩月くんが弾いているのは、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64、通称「メンコン」だと志津子が教えてくれた。

ベートーヴェン、ブラームスの作品と並んで『三大ヴァイオリン協奏曲』言われている名曲だと。

 指先から繰り出される演奏は感受性豊かで表現力も、クラシックは堅苦しくて面白みがないという思いこみを払拭させてしまうほどだ。

「……すごい。彼のあんな真剣な顔、初めて見た」

緒方さんの声は甲高く、ひどく驚いている様子だった。

「これでも遊びで弾いてると言えるか?余裕で弾いてると?」

緒方さんは黙って首を横に振る。

「周桜は……この演奏でも納得していないだろう」