「音楽科は月末から11月半ばまで各種コンクールがあるし、期末の実技試験、それに大学入試の実技もあるから練習室の予約がなかなか取れないの」


「街頭演奏をしている彼は賢明ね」

志津子は再びポカンとし「そうね」と付け加えた。

放課後、図書館に本を返して来るという志津子を待つ間、正門前で安坂さんが緒方さんを強引に、車の助手席に乗せ走り去るのを見た。

編入して以来、2人が一緒にいるところしか見ていない。

志津子と正門で合流し、2人の姿を見たと話すと、志津子は練習室で練習をせずにいちゃついているという噂もあると、耳打ちした。

「くだらない」

そんなゲスの勘ぐりしかできないのかと思う。

坂道を下り、山下公園に向かう。

9月も半ばを過ぎたのに、まだ日射しが強い。

じわりと汗が滲んでくる。