「とりあえずマックか」
智子は自転車を立ちこぎしながら、後ろの綾子を見ることなく言う。
「そうね。」
学校から400mmほどの通学路にあるマクドナルドは、土曜のこの時間帯は
城西高校の生徒が客の3割を占める。
智子達二人は2階の奥の四人掛けの席へ座った。
「はぁ、奈々はいいなー。」
智子は、チーズバーガーをほおばりながらつぶやく。
「まだ、言ってんの?」
「だってさぁー。うらやましいもんはうらやましいわよ。」
「でも、トモも好きな人はいるじゃない、バスケ部の鹿山君だっけ。」
「いるたって、ほんとにいるだけだし、話したこともないし、
向こうは私のこと知らないし。」
「テレビのアイドル好きなのと変わらないと。」
綾子は、シェイクを飲みながら表情を変えずに言う。
「そう、そうなのよ。テレビのブラウン管を通して見るかどうかだけなのよ。」
「バスケ部のマネージャーにでもなればいいんじゃない?」
「それは考えたけどね、でも私マネージャー業とかって、
一体何が楽しいのか分らない人だから。
もしマネージャーになるとすれば、完全に男目当てということになるわけで、
さすがにそんな露骨なことはできないわけで。」
「まあ、それをやるにはかなりの勇気がいるわね。ある種の。」
綾子はシェイクの容器を傾けて、残りを飲もうとする。
「そこまでの勇気はないわ。」
智子はチーズバーガーを食べ終わり、ポテトに手を伸ばしながらため息をついた。
「でも鹿山君って、たしかもう一つクラブに入ってたんじゃなかったっけ。」
完全にシェイクを飲み終えた綾子が思い出したように言った。
「え、そうなの?」