初夏、
澄んだ青空に、雲がまばらに浮かぶ土曜の正午前。
北瀬智子(きたせ ともこ)は、窓際の机から外を眺めていた。
あと5分か…、
歴史の先生はまだ饒舌に授業を続けていたが、授業終了を心待ちにして
勉学への集中力のきれた智子にはもう言語として理解されなかった。
キンコーン、カンコーン
終業ベルがなったが、先生の授業は終わりそうにない。
智子はもう教科書と筆記用具を机の中へしまい、真の授業終了を待った。
ここ川崎県立城西高校1年B組の教室では学校から
下校する生徒や教室で友達とのおしゃべりに夢中な生徒でざわついていた。
ゆとり教育の見直しを受けて、城西高校も完全週休二日制を
廃止し、二週に一回は土曜も午前中だけ授業を行うことになったのだ。
「あ~~~つかれたぁ。」
智子はだみ声をもらしつつ、カバンに今日の分の教科書をしまっている最中の
友人の綾子に近づいた。
「疲れたって、たかが午前の4限だけじゃない。」
綾子は智子の方を少し見てからそう言い、教科書をしまう動作を続けた。
どうやら綾子は最後まで授業を聞いていたようだ。
「私を疲弊させるには十分な授業時間よ。」
綾子はもう返事はせずに帰り支度を続けた。
「ねえ、今日はどこ寄る?」
「う~ん、どうしよっか。そういえば奈々は?」
「あの子は、ぎょうはデートですよ。」
「ああ、最近できた彼氏と。」
「そう、またしてもできちゃったんですよ奈々は。」
「なにそれ。」
綾子の帰り支度が終わり、智子たちは教室を出た。
校舎の外は、教室同様喧噪にあふれていた。
智子と綾子は駐輪場で、自転車に乗り、学校の外へ出ていく。