キッチンからかたかたと物音が聞こえる。
背筋をピンと伸ばしその場に正座をした状態で、ワンルームの部屋を見渡した。最近一人暮らしを始めたという幼なじみの薫くんの部屋だ。
最近と言ってももう1ヶ月も経つので部屋の中はそれなりに片付けれていた。小物や棚は全部黒と白で統一されていて、人形だらけの私の部屋とはまるで違う。『男の子の部屋』って感じだ。
自分の部屋との違いにそわそわと落ち着かない気分でいるとコトン、と目の前の机にカップが置かれた。中には真っ黒なコーヒー。
「なあ百花」
「な、なによ」
「本当にそれ、飲めんの?」
「飲むのっ」
語気を強めてそう言うと、目の前の薫くんはやれやれといった表情で私の真正面にドカッと座った。
机に片肘をついて試すような視線を向けてくる薫くんに、私は唇を尖らせて目の前のコーヒーにフーフーと慎重に息を吹きかける。瞬間、立ち上る湯気とコーヒー独特の香りにイケるかも、なんてそんなことを思った。
「無理すんなよ」
薫くんが気遣うような言葉をかけてくれる。
私はうん、と一つ頷いてからコーヒーを一口、ゴクリと飲み込んだ。
「………っ」
率直に思い浮かんだ味の感想は『苦い』『まずい』だった。
「百花」
「…………」
「無理すんなって。お前昔っから苦いの嫌いだろ。それなのに何で急にコーヒーなんか……」
「そ、そんなことないっ!美味しいもん……」
「全然美味しいって顔してないけど」
「………」
もっともすぎる薫くんの意見に反論ができない。
「ほら、オレンジジュース持ってきてやるから」
「いい!これ飲むから!」
立ち上がろうとする薫くんを制して私はもう一口コーヒーを飲む。やっぱり、出てくる感想は苦くてまずいだけだった。