「………はっ………………?」
気付けば、黒瀬の顔はさっきよりも近くなっていて。
少し動けば唇が触れてしまいそうな距離。
私のドキドキメーターはもう完っ然に振り切れてる。
おかげで凄く調子狂ってるよ。
………ねぇ、黒瀬。
あなたはなんでそんなことするの?
そんなことしたら、余計取り乱しちゃうじゃん。
ほんの1mmずつくらい近づいてくる黒瀬の顔。
落ちてくる影。
私は反射的に目を瞑る。
―――――――しかし。
いきなり、両手にのしかかっていたごつごつとした黒瀬の手の感触がふわりと消え、さっきまですぐ近くに感じられていた影がすぅっと無くなっていった。
そして、ゆっくりと目を開けると、そこにはさっきよりもだいぶ距離の離れたところで黒い笑みを浮かべる黒瀬の姿があった。
「………お前のキス待ち顔、最っ高だった。」
「………………っんの馬鹿アホ黒瀬がぁーっ!!」
べちんっ、と気持ちの良い音がして、黒瀬の体はまるでスローモーションのように床に崩れ落ちていった。
「っいってーなっ!暴力女!」
「っさい、セクハラ男!」
あー、なんだかんだ言って、やっぱりいつもと一緒じゃんか。
内心はぁっと溜息をつきながらも、わたし的には今の距離感でいいな、と正直に思った。