私が意を決して玄関ベルを鳴らした直後。
出てきたのは女の子……ではなく、黒瀬皐月だった。
「間違えました。」
「おい、待てって!」
すぐさま出ようとしたけど、私の手首は黒瀬にしっかりと掴まれ、あっけなく引き戻された。
「痛い、痛いって!」
なんだ、これじゃいつもと変わんないじゃん。
黒瀬は、掴んでいた私の手首をぱっと離す。
「……居候って、藍野のことだったのか。」
黒瀬はにやりと黒い笑みを浮かべる。
ったく、不謹慎なやつ。
もしかして、ショックで本題忘れてます?
今日から最低2年、アンタと同じ家に住むことになるんですよ?
マジで最悪。
こんなんならひとりで暮らす方がよっぽどいい。
私が盛大に睨みつけてやると、黒瀬は余裕な表情で睨み返してきた。
……んのやろー。ムカつく。
私は開き直って、、ずんずんと中に入っていく。
黒瀬は私の後ろで小さく呆れ笑いしながら、私の歩調より少し速めについてきた。
しっかしさすが。
大豪邸なだけある。
家全体がきらびやかなオーラに包まれている。
おとぎ話に出てくるような、華やかな大広間。
美しい絵画や彫刻、高そうな宝石類が部屋のいたるところに丁寧に飾られている。
綺麗に手入れが行き届いていて、ちりひとつないピカピカした家だ。
さっきちらっと螺旋(らせん)階段まで見えたし。
しかも、辺り全体に甘いバニラの香りが漂っている。
なんてオシャレなんだ。
確かにお姉ちゃんやお父さんお母さんが言ってたこととおんなじだ。
おもわず感動して立ちすくんでいると。
「気に入ったか?うち。」
黒瀬が横から私の顔を覗き込んできた。
あぁ、いけないいけない。
ときめいてしまうところだった。
どんなに綺麗とはいえ、ここは黒瀬の家。
やはり一緒に住むことは納得できない。
なにせ、最悪男なんだから。
「綺麗……だね。」
「これ、全部姉貴とメイドが管理してるんだよ。」
「へ?姉貴??」
今姉貴って言った?
「俺の姉貴。姉貴いんの。黒瀬 優里。」
「………あ。」
ついに、優里ちゃんの謎が解けた。
優里ちゃんって…………黒瀬のお姉ちゃんだったわけですか!
なんだ。だからお姉ちゃんが知ってたわけだ。
はぁ〜すっきりした。
って。
「なんじゃそれー!」
「……っはぁ!?」