予定時刻きっかりに電車が到着し、シューッと聞き慣れた音を発する。
この時間帯は会社帰りのサラリーマンやOLで溢れていて、私たちは人の波に流されながらギリギリで乗車した。
電車がゆっくりと揺れ始める。
お姉ちゃんは一応、モデルの「アリス」だとバレないように、マスクと伊達メガネをかけているけど、やはり毛先がピンクがかったつやつやの金髪は、さすがにかなり目立っていた。
中には「アリスちゃんじゃない!?」「絶対そうだよ!」なんて声も聞こえたりして、お姉ちゃんは照れた様子で俯いていた。
「〜〜駅……〜〜駅……」
変に抑揚のついた車内アナウンスが流れると、ぎゅうぎゅうの車内の中で、たくさんの人が動き出した。
私も、降り遅れないように一生懸命進む。
お姉ちゃんは、このまま仕事場まで直行するから、ここでバイバイだ。
「頑張って。」
最後にお姉ちゃんが口パクでそう言ったのを、私はしっかりと胸に焼き付けた。
ほんの少しだけ勇気が出た気がした。
――――――――――――――――――――――――
指定された住所とナビを駆使して、私は少しずつ目的地に近づいている。
目印は「ひときわ目を引く洋風邸」らしい。
なんと言っても、その家は両親が働いている会社の社長の家らしく、その社長さんはまた別の家に住んでいるらしい。
とにかくすんごい金持ちなんだそうだ。
でも、お金持ちの令嬢の優里ちゃんなんて、実際聞いたことがない。
入学してからまだ1か月だからかな。
そういえば、あの黒瀬も家はだいぶなお金持ちらしい。
って、黒瀬のことなんてどうでもいいのにっ。
何考えてんだ、馬鹿か私は。
気を取り直して、さらに道を進んで行く。
しばらくすると、結構奥の方に、何やら派手に輝く金の柵らしきものが見えてきた。
足を少し速めてその家に近づいていくと、だんだん影が見えてきた。
確かにひときわ目を引く洋風邸だ。
ナビも、「目的地に到着しました。」って、言っている。
どうやらここみたいだ。
だけど。
…………………今、私は確実に、“見てはいけないもの”を見てしまったようだ。
一瞬にして、私の体に寒気が走る。
…………待って待って。
なんでこの家の表札に……………………
“黒瀬”って書いてあるの………?