チリンチリン……
扉のベルが綺麗な音を奏でる。
「ただいま……」
なんとなく緊張してきた。
いつものように返事はないと思っていたら、驚くことに、奥からお母さんが出てきた。
「おかえり。春歌。」
かすかに微笑んで、目の前にいるお母さんが言う。
おかえり、なんて言われたのすごく久しぶり。
うちは両親ともにバリバリ働いてるから、おかえりって言うのはいつも私だったから。
というか、朝も思ったけどなんでお母さんいるの?
いつも私よりだいぶ先に家を出て、だいぶ遅くに帰ってくるのに。
お父さんなんて、夜はとんでもなく遅くて、朝は絶対に出てこない。
私が家を出たあとにやっと目を覚ますんだ。
だから、一日の中で一度も会わないのがほとんど。
お父さんとお母さんは職場結婚で、出会った時も今も、会社では上司と部下の関係なんだそうだ。
なんとなくやりづらそう………。
でも、仕事は結構大変で。
休日も働いてるからなかなか会えない。
だから、お母さんと会えるなんて超ラッキー。
でも私は今、ラッキーな気分とは裏腹に、ただ嫌な予感を恐れているばかりだった。
いや………なんとなく、奥の部屋のほうに見える荷物がやけに不自然なのですが………?
「春歌、話があるの。来て。」
お母さんはそう言って、リビングへと消えて行く。
私は、慌ててローファーを脱いで、お母さんの後を追った。