また、シューッと音を立てて扉が閉まる。
そして、ゆっくりと、がたんごとんと電車が揺れ始める。
さっきのキツイ臭いじゃなくって、爽やかな香りが私の鼻腔をくすぐる。
……なんで、黒瀬が。
私の口は空いたまんま塞がらない。
「ばか。藍野のくせに間抜けな顔してんじゃねーぞ。」
黒瀬は、私よりだいぶ上の目線から、私の頬をちょんっとつねった。
どきんっ。
何故か、黒瀬から触れられた頬がやけに熱くて。
全神経がそこに集中したような感覚になる。
(やばっ………なんでっ…………?)
胸の鼓動が高鳴って、どきんどきんとうるさい。
それに、すぐ目の前に黒瀬の端正な顔があって、余計に恥ずかしくって。
「見ないで……っ………あんまりっ………」
「ふっ。照れてんの。」
――――――黒瀬は余裕な感じで黒い笑みを浮かべる。
けれど、その顔はいつもの憎たらしい黒瀬の顔ではなくて。
………どこか切なそうな、愛おしそうな目をしていた。
そんな黒瀬の瞳に、私の心臓は急加速。
もうショート寸前。
今までこんなこと体験したことなんてない。
初めての感情。
それがなんなのか、今の私には全く分からなかった。