「理沙さん、お願いします」
今日は花金。
お店はもれなく満席御礼で、私は相変わらず絶賛呼び出され中。
『安藤さん、ルイ入れてくれるって。女の子増やして。あと、最後らへんでまた戻してね。』
小声で葵ちゃんに告げると。
「あらー・・・困ったな。もう戻せないかも。次、VIPルームなんだけど。」
葵ちゃんの背を追って登る螺旋階段。
VIPルームは、その名の通りVIPな方をお通しするお部屋で。
とはいえ、いちおう六本木では一流有名店と言われる弊店は、芸能人や政界の方でも珍しくないので。
VIPルームにお通しするのは、よっぽどお店が大事にしてるor人目を集めてしまう大物の方だけ。
誰だろう?野球系はまだシーズン中だし…
『失礼します』
営業スマイルを貼り付けて、別階にある重厚な扉を開けた。
「久しぶりだね」
重厚な部屋の中で。
大きな赤いソファーに座っている人。コワモテなのに、誰よりも優しい笑顔で私を甘やかす人。
『倫くん!』
「お疲れ様。元気そうだね。」
一気にリアルに引き戻される感覚。
まさか、倫くんが来てると思わなかった。
私以外に、倫くんを倫くんと呼ぶ人を知らない。
倫くんは、私の人生を変えた元カレの大親友で。
元カレ同様、私にとって家族だった。
ずっとずっと前からの私を知っている人。ダメで弱くて子供な私を、ずっと見守ってくれてる人。
『コーラお願いします』
倫くんの隣に座るなり、ボーイに声をかける。頷いてイヤホンで注文を通してくれる。
『あ、お断りする前に頼んじゃった。』
「今さらか。笑
いいよ、何でも飲みな。今日はもう、仕事終わったようなものだな。」
『そんなことないよ!働くよ~~
倫介さん、お久しぶりですネ♡』
「ははは・・・」
ああああ、安心するなぁ、この笑顔。
倫くんには悪いけど、もう今日は営業終了だ。
『一人なの?どこか飲んできた?』
「うん、ちょっと取引先とね。いちおう、今人呼んでるからもうすぐ来ると思うけど。」
『そうなんだ。』
「相変わらず忙しそうだな。・・・最近は体は大丈夫か?」
『おかげさまで♡稼げるうちに稼がないとね、よっしゃカンパーイ♡』
コーラを高らかに持ち上げると、笑いながらグラスを合わせてくれた。