閉まった扉の前で。

私はまだ、抱きしめられたまま。



胸から伝わる、航大の体温と。頭を包む大きな手。




だけど。

そもそも、なんでこんなことに?
なんで私、抱きしめられてるの??





『・・・ちょっとっ・・・!』


たくさんの疑問詞に息がつまり、くっと両手に力を入れて胸を押すと。

意外にもあっさり、体は離れた。



『ねぇ、一体なんなの・・・』


いい加減、文句の一つでも言ってやろうと。

見上げた男の顔は、期待外れにひどく優しくて。ケンカ腰に用意した言葉を失う。




「ほんとに、ちょっと熱いぞ。熱測ったほうがいいかも。」


甘い手つきで、汗に濡れた私の前髪を優しく分ける。
おでこに触れた手に、カッと上がる自分の体温を感じて。



『し、シャワー浴びてくる・・・!』


その手をはらうようにして、バスルームへ逃げ込んだ。









バスルームの鏡に映るのは、涙目で頬の赤い自分。

部屋が暗くてよかった。こんな顔見られたくなかった。


蛇口をひねると、大きな音を立てて流れ出したシャワーに。慌てたように飛び込む。






冷やしたい、体も頭も。

なんだか、昨日から変なことばかりが起きてる。






バスルームにローズの香りが充満する。

つい、癖でハワイにも連れてきてしまった。そしてこんなときにも、使ってしまった。

人間の習慣の怖さに、ため息が出る。






ロクシタンのローズシャワージェル。

もちろん、航大からもらったものはとうの昔に使いきってるわけだけど。

あれから気に入って買い続けてるなんて。乙女っぽいこと、知られたくない・・・。汗


バスルームから出る頃には、帰ってくれてたらいいのに。