私がすっと抵抗の力を弱めたのと。
「こういうことなんで。」
航大の声が降ってきたのは、ほぼ同時だった。
「おま・・・まじか・・・」
直生さんの、絞り出すような声と。
「理沙子さん、大丈夫・・・」
瀬名ちゃんの、震える声。
「瀬名さん、こいつ熱上がってるから、今日はこのまま休ませるわ。」
腕の隙間から顔を覗かせた私は、必死でうんうんと頷く。
この涙目は、熱に浮かされたせいだと無言で伝える。
瀬名ちゃんは、困ったような表情で、直生さんと目を合わせて。
判断をしかねている様子。
見慣れたこの男が。現状況において、敵か、味方か。
気まずい沈黙の中で。
先に口を開いたのは、直生さんだった。
「・・・熱、上がってるんだもんな。
理沙ちゃん、今日はもう、俺らに気を使わずゆっくり休んで。
今回は本当にありがとう。また日本に帰ったら、正式にお礼させてください。」
抱え込まれる私に目線を合わせるようにして。
直生さんは優しく微笑んだ。
この人の雰囲気は、人を安心させる。
ハワイにいる間、直生さんの存在が心強かった。
“リーダー”って。才能の一つなんだろうな。
「・・・分かった。
七瀬くん、よろしくね。あとで連絡する。
理沙子さん、あとで明日のこととか含め、連絡しますね。欲しいものがあったら、遠慮なく電話して。」
直生さんが味方判決を下した手前、引くしか選択肢のなくなった瀬名ちゃん。
不安そうだけど、優しい笑顔で私に頷いた。
「けど七瀬くん、理沙子さんに手出したらシメるよ?」
一瞬で殺気立つ瀬名ちゃんに。
頭上の男が、口元の笑みを返したのを感じた。
見慣れたこの男が
今宵は敵か、味方か。
私にはまだ、分からない。