そろそろ来る頃だと思っていたから。
部屋の呼び鈴が鳴ったとき、わりとすぐ起き上がれた。
相手を確認せず、扉を開ければ。
「・・・あぶな、俺じゃなかったらどーすんの。」
トムブラウンのサングラスから覗く目は、愛すべき相方。
「航だと思ったんだよ。笑」
差し出されたビニール袋を受け取ると、航は何も言わずソファに座った。
陽「これ、自分で買いに行ったの?一人で?」
袋には、ペットボトルの水やクラッカー。フルーツに、サラダ。
航「うん」
陽「そっちのほうこそ、危なくない?笑」
航「いや、意外に平気。」
陽「だって、超“七瀬航大”感出てるぞ。」
航「・・・ばかにしてんの?笑」
航の連れてきた空気は、いつもと変わらず。
だけど、俺に向き合う思いは。
きっと、いつもと違う。
陽「なんか飲む?って言っても、コーヒーくらいしかない。」
航「いらない。陽斗、体は?」
陽「ああ、俺はそんなひどくないから。」
敢えて、“俺は”と口にした。
責められるなら、謝る。
彼女を酷使した。彼女を独占した。
目覚めたとき、一番に謝りたかったのは真実だったけど。
一連の行動に、全くの独占欲がなかったと言えば。
それは綺麗事だ。
航「ありがとな。」
小さく、だけどはっきり聞こえた声に驚いて振り返ると。
手首のクロムハーツをいじりながら、目を上げない航が。
航「理沙子のこと。連絡くれて、ありがとう。」
と、もう一度繰り返した。