迷わず、シャッターを押した。
夜が近づくことを知らせる、涼しい風が頬を撫でて。俺はまた彼女を思った。
ここに来て、改めて思い知る。あの夜自分が堕ちた、果てない穴を。
何を見ても、何を感じても、無意識に彼女が浮かんだ。
泣けるほどの朝焼けも。
柔らかく鼻をくすぐるプルメリアの香りも。
全部全部、君に持ち帰れたらいいのに。
帰国したら、一番に会いに行こう。
君に会って、恋に堕ちた自分を存分に思い知ろう。
彼女に見せたいと撮りためた写真を眺めていたら「何でだよ!」と航が大きな声をあげた。
すごい顔で携帯の画面を見ていたがすぐに口元を緩めて、ニヤニヤしだして。
大丈夫か、あいつ。
彼女のこと、告げたほうがいいのか分からなくて。
でも何て告げる?
航は、まだあの人と別れていないはず。
別れられて、いないはず。
「彼女に堕ちた」
俺の告白は、航を追いつめるんだろうか。
航の背中を、押すんだろうか。