いつのまにか、理沙子が言ってくれたんだろう。
タクシーはすぐに俺の前に止まった。
「じゃね、ラストまでがんばって。」
乗り込んで、運転手が開けてくれた窓から顔を出す。
『チョコ。』
ふわっと窓に顔を寄せて、屈んだ彼女。纏っているのは、シャネルのあの香り。
『お店じゃなくてもいいよ。話、ゆっくり聞くからまた連絡してね。』
驚いた。
いつものようにスルーされてると思ってたのに、聞いてたんだ。
「…ゆっくり話したいこともあったし…」と言った、今日の俺の一言。
すげぇなあ、これは惚れるわ。
六本木のナンバーワンだって忘れてたら、完全に堕ちてた。笑
彼女は、『待ってるよ。』そう笑って、『お願いします。』と運転手に軽く頭を下げた。
走り出した後部座席で振り返ると、まだ小さく手を振っている姿が見えた。
鼻先に残った、シャネルのあの香り。
この香りを、俺はよく知っている。