陽斗くんの入れてくれた紙コップのお茶を。
熱くなった瞼に、当てた。
これから、航大のところに行くと言えば。
「なんで?まだ行ってなかったの?!」
慌てて立ち上がって、鞄から取り出した携帯をいじる姿に。
『あ、陽斗くんに伝えるのが、先だと思ったからっ・・・』
つられて、意識が焦る。
だって、誰よりも先に、陽斗くんに。
この思いを、打ち明けるのが筋だと思ったから。
謝りたいのと、ありがとうが。
どうしようもなく溢れたのは、陽斗くんに対してだったから。
小さな、ため息と。
「・・・ほんっとに、理沙は。」
困ったように微笑む、細まる瞳に。
懲りない胸は、キュウッと鳴く。
だけどそこにあるのはもう。
微かな切なさ、だけ。
「航、この後別の仕事が入ってるんだよ。聞いてない?」
『え?別の、仕事?』
「うん。まだいるかな・・・」
口元に手を当てて。
誰かに電話をかけ始める。
「・・・もしもし、うん、俺。
ねぇ、航って、今______________
・・・ああ、うん。そっか、うん。」
背中を、じんわりと。
冷たい汗が、伝っていく。
電話を切った、陽斗くんの。
眉を寄せたままの浮かない表情に、息が苦しい。
「ごめんね、マネージャーにかけてみたんだけど。
今日は航、別で異動することになってるらしい。」
『別で異動って・・・。』
「とにかく、急いで向かって。
・・・もしかしたら、航。」
CHANELのトートに手をかけて、思わず立ち上がれば。
「最初から、理沙は来ないと思ってたのかもしれない。」
独り言のような、その響きに。
身体がズシリと、重くなった。
万有引力の法則。
航大がいなくなった、世界では。
私はそんなのまで失くして、バランスを崩す。
俺に賭けろって、言ったくせに。
かっこつけて一人、身を引いたフリなんてして。
自信過剰なくせに、不器用で。
横暴に見せて、温かい。
そんな、そのままの航大でいいから。
そのままの航大がいいから、そばにいてほしい。
そうじゃないと、きっともうだいぶ前から。
私は私で、いられない。
何回でも迎えに来てやるって言ってた。
だけどもう、来てくれなくたっていい。
私が、今から。
貴方を、迎えに行く。